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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)908号 判決 1958年4月10日

主文

原判決中「当審における未決勾留日数中百弐拾日を原判決の本刑に算入する」との部分を破棄する。

その余の部分に対する本件上告を棄却する。

理由

名古屋高等検察庁検事長代理次席検事中条義英の上告趣意について。

記録によれば、被告人は本件につき起訴前の昭和三一年五月一五日勾留状の発布執行を受け、爾来第一審並に原審を通じて、勾留を継続されているものであるが、これよりさき、被告人は昭和二六年八月二四日名古屋地方裁判所において住居侵入、強盗未遂罪により懲役三年の言渡を受け右判決は同年九月八日確定(右はその後昭和二七年四月二八日政令第一一八号減刑令により懲役二年三月に減刑された)したので昭和二九年八月一八日から右刑の執行を受け、次いで昭和三一年二月二日仮出獄を許されたが右刑の刑期満了予定日であった昭和三一年一一月一七日までの期間中に右仮出獄を取消されたため更に本件被告事件について勾留中の同年八月三一日から右仮出獄取消による残刑の執行を受けることとなり、その刑期は昭和三二年六月一五日に終了すべき筋合であったところ、被告人は本件第一審の判決に対し昭和三一年九月二九日控訴を申立て原審はこれに対し昭和三二年三月二〇日控訴を棄却するとともに原審における未決勾留日数中一二〇日を第一審判決の本刑に算入する旨の判決を言渡したものであることが明認できる、さすれば原判決は原審における未決勾留の全期間が前示確定刑の執行と重複執行されていたにも拘らず、これを前示の如く第一審判決の本刑に算入する旨言渡したものであることが明らかである。思うに、右のように刑の執行と勾留状の執行とが競合している場合には懲役刑の執行としては一個の拘禁のみが存在するものと解すべきであるから、かかる場合に重複する未決勾留日数を本刑に算入することは不当に被告人に利益を与えることとなり違法と云わざるを得ない、されば原判決は刑法二一条の適用を誤った違法があり且所論判例にも反するが故に論旨は結局理由があり原判決の前記未決勾留日数を算入した部分は破棄を免れない。(当庁昭和二九年(あ)第三八九号同三二年一二月二五日大法廷判決参照)

よって刑訴四〇五条三号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中百弐拾日を原判決の本刑に算入する」との部分を破棄し、その未決勾留日数を算入しないものとし、その余の部分に対する上告は、上告趣意として何ら主張がなく、従ってその理由がないことに帰するから刑訴四一四条、三九六条により主文二項のとおり上告を棄却すべきものとする。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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